世紀末の双生児

「ark」と「ray」。1999年7月に《アルバム2枚、同時発売!》という謳い文句の下にリリースされた、ラルクアンシエルのオリジナルアルバムである。

20世紀末の日本において、この《2枚同時》の状況が作られた原因のひとつには、Wikipediaの「ark」記事に書かれているような、「HEART以降に出したシングル8曲を1枚に入れたら、ただの半ベストになってしまう」というメンバーの意向も大きかったと考えられる。

そこで《2枚組》のアルバムではなく、確かに違うものでありながら、けれどどこか似通った雰囲気も持つ、まさに《双子》のアルバム2枚を世に送り出し、それらがオリコンチャートで2週にわたってワン・ツー・フィニッシュを飾ったという業績は、日本の音楽史上において、ラルクというバンドの為し遂げた偉業のひとつに数えられるだろう。

けれどここでは、あえて「ark」と「ray」が1枚のオリジナルアルバムであった、と考えてみたらどうか? という命題に挑戦してみたい。収録曲はそれまでのアルバムよりはやや多く、そしてラルクらしさの要素を考えあわせて、全13曲ということにしてみよう。「HEART」後のシングル8曲(+後にシングルカットされた「Driver's High」)は必須、その他は「ark」、「ray」からアルバム曲を選択し、《1枚のアルバム》として聞けるように曲を配置してみる。

以下が、そのような仮定の下に作ってみた自分なりの《アルバムリスト》である。

01. DIVE TO BLUE
02. HEAVEN'S DRIVE
03. Driver's High
04. trick
05. 真実と幻想と
06. 花葬
07. forbidden lover
08. いばらの涙
09. 浸食 〜lose control〜
10. HONEY
11. What is love
12. snow drop
13. Pieces

なるべく元の「ark」、「ray」とは似せないように心がけたが、最後が「Pieces」になるのは動かしようがない気がした。また「HEAVEN'S DRIVE」、「Driver's High」の《しりとり》つながりの流れも動かせない。4曲しかアルバム曲を入れる余地がないのが考えどころであったが、「trick」、「いばらの涙」は確実に外せない(どちらも「ray」曲だったか)…などと、悩みつつもこうなった。

余談ではあるがこういった、自作プレイリストによる楽曲の試聴が簡単にできるようになったMP3時代というのは、改めてすごいものだと思う。CDを入れ替えながらオリジナルMDを作ったり、はたまたカセットデッキを二台用意してテープをダビングしていたというような日々のことを思い出せば…あまり語ると、ジェネレーションギャップに切なくなるのでこの辺りで止めておく。

「HEART」までは、ラルクのアルバムといえば全10曲だった。これは「あんまり長いと聞く側がダレてしまうから」というメンバーの考えによるものであったらしい。「ark」と「ray」は、それぞれ1曲ずつのyukihiro作曲によるインストゥルメンタル・ナンバーを入れての全11曲。次の「REAL」は、インスト曲なしで全11曲であった。その後、長いブランクを経ての復活作「SMILE」ではまた全10曲に戻っていたが、これには「《ラルクのアルバム》を作る」という行為の原点に立ち返るという意味もあったのでは…という見方は穿ちすぎだろうか。

そして近年に発表された2枚のオリジナルアルバムは、どちらも全12曲収録という形になっている。Wikipediaの「AWAKE」記事にあるtetsuの「12曲でもダレずに聴かせられるようになったから」というコメントには、贔屓目を抜きにしても全面的な賛同を送りたいと思う。

反戦》という、普遍的かつ時代を反映した重厚なテーマに取り組みながらも、バンドとしてのアイデンティティに立ち返ったかのような音の「AWAKE」。そこから少し肩の力を抜いて、ラルクアンシエルの描く多種多様な未来像のあり方を、きらびやかに提示してくれた「KISS」。バンド結成14年目と16年目に世に送り出されたこの2枚は本当に、繰り返し聴いていても飽きのこない名盤である。眩しい光線に包まれて世紀末を乗り越えた方舟の航海は、嬉しいことに、まだまだ終わりそうもない。