眠りによせて

あの日から一年が過ぎた。

2008年5月9日、フランス、パリにおいて日本人ミュージシャン史上初の大規模海外公演を成功させたロックバンド、ラルクアンシエルは《2011年までのLIVE活動休止》を発表し、それはあくまでバンド活動の休止でないとは言え、表面的なものだけを問題にした場合、2009年5月現在、彼らの《生命活動レベル》はここ数年の中で最低と言えるまでに低下している。

一部のメンバーはソロ活動を精力的に行っており、それは同時にバンドとしての活動時間が減少することを意味している。あるミュージシャンの音楽活動においてソロとバンドが相反する存在となっていた場合、今のような状況はバンドの危機だと言えてしまうのかもしれない。

けれど、現在のラルクと各メンバーの置かれている状況はそうではない。《休眠中》でありながら今のラルクアンシエルのバンドとしての《生命エネルギー》は決して減少しておらず、むしろこれまでにないほどのハイレベル、ハイクオリティのもので充填されているように感じられてならない。

パリで体感した熱狂に「Tour '98 ハートに火をつけろ!」を思い出したように、もしも今、ラルクが再び欧州を含めた海外の各地で公演をするようなワールドツアーを行ったのならば、さらなる成功を収められる可能性は極めて高いようにも思われる。だが、彼らはその道を選択しなかった。何故か? 1998-2000年の経験から既に知っているからだ、バンドエネルギーが充填された状態で全力疾走を続けると、やがてそれが(崩壊という未来すら含めた)暴走へとつながりかねないことを。

「休むのは必然だと思うんだけど」

DVD「DOCUMENTARY FILMS 〜Trans ASIA via PARIS〜」でhydeが語った言葉は、まさにこのような状況を説明しているのではないだろうか。

2000年「REAL」後の《燃え尽き》から4年という歳月を経て、2004年に「SMILE」で復活を遂げたラルクアンシエルが、過去を払拭するほどの新たな地平に辿り着けたのはさらに一年後、2005年の「AWAKE」においてだ。そこから2007年の「KISS」へと至る過程は、今にして振り返れば全てが《歴史の必然》だったのだと理解できるが、海外での活動をさほど重視しない、日本在住のFanという視点からリアルタイムで追っていたならば、不満や違和感を抱かずにもおれなかっただろうとも思う。

――何故新しいアルバムを出さずに、記念LIVEや全国ツアーをするんだろう? ホールツアーなんて、長年のFC会員でもチケットが取れないのに。

それは「KISS」の季節の後半に待っていた、ヨーロッパを含む海外公演という新たな挑戦の場へ飛躍するための、長い長い助走。「この一連の活動が終わったら、しばらく会えなくなるから」、2006年の「15th L'Anniversary Live」から始まった「KISS」の季節の前半で、それをはっきりと知っていたのはおそらくラルク側だけだっただろう。

9年ぶりの日本全国を回るホールツアー*1。どこへ行こうとも、あくまでも彼らのホームである日本のオーディエンスの顔をよく見て、メンバー同士、スタッフ間のコミュニケーションを深めて、ラルクアンシエルの力を再確認して。

「Are you ready? 2007 またハートに火をつけろ!」の時点でどこまでの未来像が描かれていたのかは、無論こちらには知る術もない。けれど次回のアルバム*2ツアー後に海外での活動範囲を拡げることは「AWAKE」期、「ASIALIVE 2005」の後には既に確たるヴィジョンとして描かれていたのではないかと思う。

そうであるからこそ「KISS」期の最終章、集大成となる「TOUR 2008 L'7 〜Trans ASIA via PARIS〜」を成功裡に終えたラルクアンシエルはその充実したバンドエネルギーの存在故に、一度歩みを止めることがバンドにとって最善の選択、つまりは必然となっていたのだろう。

現在のラルクの《眠り》には既に目覚めが約束されており*3、目覚めた後は《最強のMONSTER》がさらにグレードアップした存在になっているのだろうことが、ただ単純に想像できる。そんな覚醒後の《NEXT AGE》を信じて待てる幸せを噛み締めながら、一年前のパリの夜に改めて思いを馳せ、ささやかながら祝杯を挙げてみたい。

*1:韓国のロックフェスティバルへの出演も合間にはあったが

*2:ご存知のように、「KISS」という名前になった

*3:ただし形は不明。次回のアルバムがいつ・どう出るのか、まったく予測がつかない…