2008/5/9 Le Zenith de Paris


忘れがたい日付――欧州各地(あるいはその他の海外各国)から集まったFanにとっては、特に。

あの日、あの場に居て興奮と感動を共有した者として、覚えていること、感じたことなどを記してみたいと思う。

2008年5月9日(金)
L'Arc〜en〜Ciel
TOUR 2008 L'7〜Trans ASIA via PARIS〜
ルゥ ゼニット アリーナ

*****

[SET LIST]

01. get out from the shell -asian version-
02. Driver's High
03. Killing Me

[MC1] hyde ...「パリジェンヌに会えて嬉しい」

04. DRINK IT DOWN
05. DAYBREAK'S BELL
06. winter fall
07. 花葬
08. My Dear
09. forbidden lover
10. MY HEART DRAWS A DREAM
11. Caress of Venus
12. REVELATION

[MC2] ken ...「今度はトリュフの季節に来たいね!」

13. SEVENTH HEAVEN
14. Pretty girl
15. STAY AWAY -formation A-
16. READY STEADY GO

[MC3] yukihiro ...「パリでLIVEができて嬉しいです、ありがとう」

17. NEO UNIVERSE
18. HONEY
19. Link

[MC4] hyde ...「フランスに来たことがない、とは二度と言わせない!」

20. あなた

結論から述べるならば、この日のLIVEは既視感と新鮮味がどちらも譲らず存在を声高に主張しているような、それでいて両者が高度な次元で完璧に融合して、至福の瞬間を供給し続けてくれているような、実に印象深いものであった。

いきなり話題が反れて申し訳ないが、この日パリで体験した感覚が何に近かったかといえば、2000年5月のLUNA SEA武道館LIVE「PREMIERE of LUNACY」ではないかと思う。《終幕》の話すらまだ公にはなっていなかった頃、長いキャリアのあるバンドでありながら、ほぼ全曲を未発表の新アルバムの曲で(C/Wを含めた先行シングルからの曲もあったものの)LIVEを一本やってしまったという、《お約束》無視上等、Fanの間ですら賛否両論の巻き起こった公演である。

その是非について今ここで語るつもりはないが、私としては彼らのそういった「無謀な挑戦」の心意気に打たれた部分も大きく、今なお「参戦しておいて良かった」と思い起こせるLIVEのひとつである。

PREMIERE〜とL'7 Parisの最大の共通点とはすなわち、「客席の大多数が、初めて生で聞く曲」ばかりで構成されたLIVE、ということだろうか。もっとも今回の場合、アーティスト側が新曲ばかりを披露した訳ではもちろんなく、オーディエンス側、大多数を占めていた海外Fanにとって、「初めてのラルクのLIVE」だったのである。

もしも貴方がラルクのLIVEのリピーターであれば、思い出してほしい。初めて体験したラルクのステージは、今でも特別なものとして思い出されはしないか? その時に感じた熱狂が、今なお自分を新たなLIVEに駆り立てはしていないか? 答えはおそらくイエスであろう。そして同様の事態が、あの日パリに集まった、数多くの海外Fanにとって起こったのだとすると――それはもう、今となっては日本では実現不可能な《現象》であったとさえ言える。

欧州唯一、いや、日本を含めたアジア外でただひとつのL'7《寄港地》であるLe Zenith de Parisは、日本語では「アリーナ」という表記が用いられているものの、中に入った感覚としては「ライヴハウス」に近かった(私見であるが、なんばHatchと共通する雰囲気を感じた)。

鉄製の階段を上って場内に入る。客電はかなり暗く、うっすらと赤い照明がともされているのみ。赤い座席は競技場のもののような硬いプラスチック製で、天井にはむき出しの鉄骨が見えている。

大きな白い幕が下ろされたステージ、その前のフロアはオールスタンディング。なだらかな傾斜で扇形に広がる客席は、途中に通路はあるものの、1F席のみと言って良いだろう。キャパ的には日本のドームクラスとは比べるべくもなく、アリーナクラスの会場を思い出しても余裕で小さいと感じられる。

後日の報道によると、この日のオーディエンスは5,500人であったそうで(見た感じでは日本人は一、二割、500人前後だったのではないだろうか)、自由席となっているスタンドの最後部はさすがに空いていたものの、開演前にはほぼ満席の状態。

フロアにはぎっしり人が詰まっており、その情景はライヴハウスの雰囲気を思い起こさせる。何よりも開演前の客電が暗いことが(欧州流なのだろうか?)日本とは異なっていて、一層、小さなハコに入っているかのような気分にさせられる。

開演が待ちきれない、あるいはこれから起こることが信じられないというように、LIVEが始まる前から観衆は熱狂していた。日本語が母語ではない筈の人々が「ラルクアンシエル!!」と早口に叫び(ラーカンシェール、という風に聞こえる)、手を叩き、足で床を踏み鳴らす。それは一部のFan集団だけではなく、数多くの海外Fanが一体となって、会場を揺るがすかのような響きを起こしているのだ。

スタッフが楽器のチェックのためステージ上に現れて、音を鳴らすだけで、オーディエンスから沸き上がる大きな歓声。なんという熱さ! 5,000を越える人数がいながら、開演前でこれ程の盛り上がりとは。「これは、とんでもないところに来てしまったのではないか?」、という期待感が強まって行くのをひしひしと感じながら、《その時》が訪れるのを静かに待った。

開演時刻の20時を5分ほど過ぎた頃だろうか。場内暗転、総立ちになるスタンド、揺れ動くフロアの人波。スクリーンの上には青っぽい光で映し出された世界地図やL'7ロゴが踊り、寄港地の都市名や、各国の言葉で《ようこそ》という意味の単語が揺れ動く。小刻みに揺れながら、やがて大写しになる《Bienvenue》、絶叫のような歓声。ああ、本当に、L'Arc〜en〜CielのLIVEが、ここフランスで始まろうとしているのだ!

聞こえてくるのは「get out from the shell」の特徴的なイントロ。生で届くラルクの音に歓声は一層高まる。だが、出だししばらくの静かな曲調の時にはメンバーの姿は見えず、人影だけがスクリーンに大きく浮かび上がっている。

そのシルエットの合間に、飛び回る猫、蝶々、渦を巻くような鍵盤、植物といった様々なモチーフが現れては消え、夢幻の雰囲気を盛り上げる。そして曲調が切り替わる前には、スクリーンに大きく「3」「2」「1」「GO」とカウントダウン…幕が落ちる!

――正直、日本でラルクのLIVEに何度参戦したかは記憶を辿って、指折り数えてみないと判らない程である。それでいて異国の地で彼らの姿を目にした時は、予想もしていなかった衝撃が心に走った。遂に会えた、あれが本物の姿なのかといったように、見慣れた筈の4人を、初めて見るLIVEであるかのように新鮮な驚きをもって迎えてしまったのである。会場を取り巻く熱に、こちらも巻き込まれていたということだろうか。

2曲目は「Driver's High」、飛ぶしかない! 日本ほどはコンセンサスが取れていない分、足並みを揃えて「Flash! Clash!」とはいかないが、それでも客席の人々も、それぞれの流儀で大いに盛り上がる。そのまま「Killing Me」へとなだれ込むという、怒涛の構成の序盤。

一息ついたところで、ステージ中央にはスポットライトに照らされたhydeが立つ。さぁ、MCだ…。

「ボンソワール(こんばんは)」だけは理解できたものの、フランス語には疎いので、一体hydeが何を喋っているのか、その時はさっぱり判らなかった。けれど(おそらくはフランス人Fanを中心に)、大きな歓声がそれに応えている。人差し指を立て、何度かまばたきをしながら、覚えたことを丁寧に確認して語り掛けるhydeの言葉が、hydeが語り掛けたいのであろう現地のFanに通じているのだ! 「ASIALIVE 2005」のDVDで見たようなそんな情景が、今まさに目の前で繰り広げられていることに、大きな感動を覚えた。

そして軽く英語で「Enjoy?」とも。おそらくフランス国外からのFanは、英語でのMCに大喜びしたことだろう。さらにはなんと、日本語でも! 「日本のみんなも楽しんでる? 一緒に暴れようぜ!」シネコンでの深夜中継に参戦している国内Fanに向けての言葉であろうが、この日、hydeの日本語を聞けるとは思っていなかったので、嬉しくて涙が出そうになった(この辺りの感覚は、海外在住の日本人であるという己の現状に起因する部分も大きいのだが)。

MCの最後、「…ヌーヴォー、『DRINK IT DOWN』」で、「新曲DRINK IT DOWN」であることくらいは理解できた。赤と青に照らされた、闇に踊る蟲惑のメロディーに酔いしれる。ここからの展開がたまらない。「DRINK IT DOWN」に続けて、「DAYBREAK'S BELL」のイントロが響いた時には鳥肌が立った。さらには花のような模様をした、青と白の光に彩られた「winter fall」と、メロディアスなken曲がこれでもかと続く。

花葬」は前奏が長めのアレンジ。暗い闇を背景に舞い落ちる紅色の(桜の?)花びらという、日本テイストを前面に打ち出した、海外公演ならではの演出が心憎い。kenの英語台詞部では大歓声が起こった。

意外にもその次は「My Dear」。個人的には大好きな曲なのだが、まさかこういう(ある意味、シングルベスト的な選曲がされるのであろう)LIVEで聴けるとは思っていなかった。さらには、kenがキーボードを弾くという新しい試みまで! あれ程完成された演出の「My Dear」をAWAKE TOURで見せておいて、それでもなお変化に挑み続けるところが、ラルクラルクたる所以なのだろうと思う。続いて「forbidden lover」、この曲は最近のhydeの深みを増した歌声で聞くと、さらに胸に響くナンバーだ。

…この連続で、重く暗く、切ない世界に沈みこんだところに、天から射す一筋の希望の光のように、kenのギターが美しい音を奏でる。こんな《救い》の位置に「MY HEART DRAWS A DREAM」を持って来るのは、反則ではないかと言いたくなってしまう程の嵌りぶり。コーラス部分では海外Fanも声を上げて歌い、一気に心は明るい空へと舞い上がる。

「ソテ(Sautez=飛べ)!」とhydeが煽る、「Caress of Venus」。結局、今回はこれが一番古い曲ということになった。続く「REVELATION」の前奏部でまっすぐに腕を伸ばし、青い光を従えてステージ中央に立つhydeの姿は本当に格好良い。唯我独尊REVELATION、という歌詞をフランスで聞き、拳を上げて飛び跳ねる快感。

今度は「Bonsoir」の発音にこだわった(繰り返した!)kenのMC。手には紙を持っている。スライドショーを使いながらの、こんなフランス料理を食べたよという紹介…らしい。さすが本場フランス(の、高級レストランであろう)、実に魅惑的な写真である。エッフェル塔のミニチュアが所狭しと並べられた土産物屋の店先を見つめるkenの姿も、パリならではの一葉だろう。

そんなkenの紹介で始まる、「SEVENTH HEAVEN」。この曲が中盤の盛り上げの位置という使われるのは初めてでないだろうか。銀テープが飛び、一気にヒートアップ…と思いきや、どこか音がおかしい? ギターが鳴っていない?? といぶかしんでいるうちに、hydeが「Sorry!」と演奏中断。kenの方を見ていなかったので、この時は何が起こったのか判らなかったが、kenの腕に銀テープが当たって(倒れて?)しまったらしい。

中断は15分ほどだっただろうか。ステージが明るくなり、メンバー再登場! 大きな、大きな歓声が再び現れた4人を迎える。「ごめんね、トイレに行きたくて!」との英語コメントではぐらかすken。だがその後の、少し詰まりながらの「ずっとヨーロッパに来たかったんだ」という言葉は、どれほど欧州Fanの胸を打ったことだろうか。

再始動、「SEVENTH HEAVEN」。銀テープを手にしていた人々は、もちろんそれを振りかざして熱狂的に踊る。予期せぬ中断が「SEVENTH HEAVEN」であったことは、不幸中の幸いだと言えるだろう。何故ならこの曲は人々を動かし、踊らせる力を持ったナンバーであるから。そして「Pretty girl」へ。「KISS」を聞いた人であれば馴染んでいるこの流れを持って来るところが、たまらなく快感である。

次の曲に向けて、hydeがギターを受け取った。これは…と該当曲を思い起こすものの、予想とは違って聞こえてきたメロディは「STAY AWAY」。まず、ボーカルを取るのはフランス三色旗仕様のスコートを履いたtetsu。これは、formationチェンジ版! AWAKE TOURでの-formation A-とは異なり、P'UNK花葬が挿入されることはなく、ボーカルチェンジを続けながら、最初から最後まで「STAY AWAY」だった。

《本日のヒーロー》kenが二番目のボーカルを終えると、ドラムセットに向かってyukihiroと交代。臆することなくステージ中央でyukihiroが後半部を歌う。エンディング部分ではyukihirohydeツインボーカルという姿も見られ、新しい挑戦に感激する。

それぞれが本来のポジションに戻り、《Are you fucking ready?》、「READY STEADY GO」。この頃になると、フランス語の判らない人々も「Sautez!!」の意味を理解して覚えており、飛ぶ、踊る、拳を振り上げると、暴れるばかりのオーディエンス。それにまったく引けを取らない、熱い演奏。

怒涛の終盤を終えると、(事故ではなく!)退がるメンバー。暴れまわった客席も小休止。だが再びの「ラルクアンシエル!」コールや、ウェーブが起こる等、待機時間中とはいえ、これまた熱い!

何周かウェーブも続いた後で、ステージに照明が戻る。嵐のような歓喜の声が、再び現れた4人を迎える。マイクスタンドの前にyukihiroが立ち、ぺこりと一礼。こちらも手には紙を持っている。フランス語で客席に語りかけると、大きな拍手と歓声がそれに応えていた(なおSET LISTに記したMCの概要は後日、各種記事等を見てから書いたものであり、当日は日本語と英語部分しか理解できなかった)。

アンコールは「NEO UNIVERSE」から。白い光がよく似合う、本当に美しい曲だと思う。hydeの伸びやかな歌声が、kenの天空を駆けるようなギターが、tetsuの流れるベースが、軽やかなyukihiroのドラムが会場を包み込む。そして「HONEY」、久しぶりにフルで聞いたが、年末の武道館「JACK IN THE BOX 2007」の衝撃ですっかり評価が変わっていたので(映像で追体験しただけではあるが)、生演奏を目にすることができて実に楽しかった。

「Link」間奏中には、tetsuもしっかりフランス語を披露。無論、聞き取りは出来なかったのだが、言いたいことはよく判る、「俺のバナナが食べたいかー!?」…客席にバナナを投げ込む、この近年の《お約束》を、リーダーは見事(?)フランスでも実践してくれたのだ。そしてなんとここでは、hydeがダイブ!

興奮が一段落したところで、再び、ステージ中央のhydeにスポットライト。この時のMCは意外なことに、日本語から始まった。

「日本のみんなには、何が起こったかわからなかったかもしれないけど、さっきkenちゃんがちょっと、ぶつかっちゃってね」
「骨は大丈夫そうだけど、今晩はお酒は控えた方がいいかもね」

騒然となる日本人Fan、何を言っているんだろう? という感じの海外Fan。ある意味、逆転現象である。これは「SEVENTH HEAVEN」時のアクシデントの説明だったそうで、シネコンへの中継映像には捉えられていなかったのではないだろうか。とはいえ自分は会場にいながら事態を理解できていなかったので、一体kenがどこで何にぶつかったのかは、この時は判らなかったのであるが。

hydeはフランス語に切り替える。何かを語り掛け、歓声と拍手を返すオーディエンス。(おそらくは)「次で最後の曲になります」と紹介して、「あなた」。この選曲は少し意外にも思えたが、今回のツアーのコンセプトに《航海》が含まれていることを考えると、最後の曲がこれであることは妥当だったのろう。

地図さえない暗い海に浮かんでいる船、それを照らし続けている星――ラルクと世界中のFanとのイメージを、そんな風に重ね合わせてくれたことに感謝の気持を覚える。ラストの繰り返し部分では、さすがに全員で大合唱、とまでは行かないが、それでも少なからぬ数の海外Fanが一緒に歌い、言葉が判らぬまでも、体を揺らしてリズムに酔う…白い羽がゆっくりと舞い落ちる中、光と音に包まれたステージと会場は一体となり、忘れ難いエンディングの瞬間を迎えたのだった。

手を振り、退がるメンバー。程なくして客電がつき(客席、照らせたのではないか!)、EnyaのSEが流れ、やがて終演のアナウンス…。意外にも客席のはけは早く、アナウンス前に出て行く人も多い。グッズ目的だろうか? それともフランス人のクールさの現れ? ダブルアンコール的な展開を期待していたこちらはしばらく待機していたものの、何も起こりそうにないので大人しく退場。

夜空に浮かび上がるLE ZENITHロゴのネオンサイン。興奮冷めやらぬ人々の群れ。「Merci, hyde!!」と声を合わせ、感謝の言葉を会場に向かって呼びかけて、軽い足取りで駅への道を帰っていくフランス人の女の子達。今宵、ここで起こったことは鮮やかな記憶となって、訪れた全ての人々の胸に刻まれたことだろう。本当に素晴らしく貴重な時間だった。

「L'Arc〜en〜Ciel、バンド名はフランス語で《虹》という意味」といった説明は良く見かけるが、そんなバンドがまさかフランスでLIVEをやる日が来ようとは思ってもいなかった。しかもそれは5,000人もの海外Fanをパリに集め、言葉の壁を双方向から越え、伝説になる程の素晴らしいパフォーマンスを(アクシデントすら含めて!)見せてくれたものだったのである。

それは長年、日本で培った彼らの経験があってこそのものだろう。結成17年、時には全力疾走しながら、時には個々での活動に力を入れながらも《バンド》として進み続けてきた彼らが、辿り着いた欧州という新たなステージ。またこの地に、あるいはその他、来訪を熱望するFanのいる世界の何処かの地に新たな歴史を築く日が訪れることを、心から楽しみにしている。